三菱自動車はパジェロ・ランサーエボリューション・デリカ・アウトランダーPHEVなど、4WD技術とSUVで独自の存在感を放ってきた日本の自動車メーカーです。WRCとダカールラリーで世界を席巻した一方で、リコール隠し・燃費不正という深刻な不祥事を繰り返し、2016年に日産の資本参加を受けて再出発しました。2026年現在はパジェロ復活と新型クロスカントリーSUVの投入を予告しながら、経営再建の真っ最中にあります。

三菱自動車の歴史

創業と独立(1970年〜)

1970年に三菱重工業から自動車部門が分離独立し「三菱自動車工業株式会社」が誕生しました。

その名の通り三菱グループのルーツを持ち、財閥系の資金力・技術力を背景に出発しましたが、1971年には早くも米クライスラーが株式の15%を取得し、外資との提携スタートも早かったメーカーです。

パジェロ・デリカ黄金期(1982〜1990年代)

1982年にデリカスターワゴン・パジェロが相次いで発売されます。1980〜90年代のRVブーム(レジャービークルブーム)を牽引し、パジェロは「アウトドアの相棒」として爆発的な人気を獲得。1994〜1995年にはホンダを上回る国内シェアを持つほどの全盛期を迎えました。

パジェロはダカールラリー(パリ・ダカール)でもその本格的な4WD性能を証明し、1985年から参戦・数々の優勝を重ねます。三菱はダカールラリーで2008年の最終勝利まで通算12回の総合優勝を達成しています。

ランサーエボリューションとWRC(1992〜2000年代)

1992年に初代ランサーエボリューション(ランエボ)が誕生します。三菱自動車は1967年から国際ラリーに挑戦し、WRCが創設されると最高峰のスプリントラリーに参戦。ランサーエボリューションにより1996年から4年連続でドライバーズチャンピオンを獲得するなど金字塔を打ち立てました。

フィンランドの「フライング・フィン」ことトミ・マキネンのドライビングはクレイジーですよ、と開発者が語るほどの激走でWRCを席巻しました。

ランエボはWRCで勝つために開発された技術の集積であり、S-AWC(スーパーAYC・ACD)という世界最高水準の4輪制御技術がこの時期に確立されました。

第1次・第2次リコール隠し(2000年・2004年)

2000年7月、内部通報による運輸省の緊急立入検査で、約23年間ランエボやパジェロ含む10車種以上・約69万台についてリコールにつながる重要不具合情報を隠蔽し、リコール届け出を行わずにヤミ改修してきたことが発覚しました。

当時の代表取締役社長が引責辞任し、本社や工場が家宅捜索されました。

全不具合情報の開示を求められたが、さらに隠蔽されていた約74万台のリコール隠しが2004年に新たに発覚。技術的欠陥があるクルマが放置された結果、2002年に横浜母子3人死傷事故・山口トラック運転手死亡事故が発生。役員が逮捕される事態となりました。

この2度の不祥事でユーザーの信頼は地に落ち、販売台数が激減。2000年にはダイムラークライスラーが34%を出資して傘下に入りましたが、不祥事を受けてダイムラーは追加支援を拒否し提携解消へ追い込まれました。

燃費不正発覚と日産による救済(2016年)

2016年4月22日、きっかけは燃費数値について三菱側の届け出と実測値に明らかな差があることを日産自動車側から指摘を受けたことでした。改めて調査したところ届け出と実測値で約7%の開きがあることが発覚。意図的な不正があったことを三菱が認めました。

軽自動車4車種で発覚した不正は三菱自動車の運命を大きく揺さぶりました。危機的状況に陥った三菱自動車を、日産自動車が傘下に入れて救済する形となりました。

日産が発行済み株式の34%を取得し、ルノー・日産・三菱の3社アライアンスに三菱が参画する現在の体制が生まれました。

現在の経営状況(2026年7月時点)

2025年度(2026年3月期)決算

三菱自動車工業は2026年5月8日、2025年度通期の決算を発表しました。

指標2025年度実績前期比
売上高2兆8,965億円+3.9%
営業利益755億円−45.6%
経常利益789億円−20.0%
当期純利益100億円−75.6%
グローバル販売台数79万7,000台−5.4%

売上高は増加したものの利益は大幅な減益となりました。米国関税の影響・中国メーカーの台頭・各国での環境規制の変更など、大きな変化が立て続けに発生し対応に苦慮した一年でした。

一方でデリカD:5の2025年度販売台数が過去最高を記録するなど、明るい材料もありました。

社長交代(2026年4月)

2026年4月1日付で三菱自動車工業の社長が交代。新社長に岸浦恵介氏が就任しました。

前社長の加藤隆雄氏のもとで進めてきたSUV・PHEV強化路線を岸浦新社長が引き継ぐ形です。

日産・ルノー・三菱アライアンスの現状

三菱自動車の筆頭株主は日産自動車(約34%)で、ルノー・日産・三菱の3社アライアンスに属しています。アライアンス内での役割分担として、三菱はアジア・オセアニア・中東市場でのSUVを担当しています。日産との協業でeKクロス・eKクロスEVなど軽自動車カテゴリは日産との共同開発が続いています。

2026年度の見通しと主要施策

2026年度の主な取り組みとして、アセアン:新型車の通年効果・クロスカントリーSUVの投入・HEVモデルの展開、日本:デリカシリーズの販売拡大・新型車立ち上げ、北米:顧客ニーズに応える類別拡充によるディーラー小売強化、などを掲げています。

また次なる成長を左右する新型クロスカントリーSUVの投入を予定しており、商品力の一層の強化を図るとしています。

現行車種ラインナップ

SUV・クロスオーバー

車種カテゴリ特徴
アウトランダーPHEVラージSUV(PHEV)三菱のフラッグシップ。S-AWC×ツインモーター4WD。2026年6月25日に一部改良。乗り心地・コンソール改善・新開発タイヤ採用
アウトランダー(ガソリン)ラージSUVPHEVと同プラットフォーム。3列シート設定あり
エクリプスクロスPHEVコンパクトSUV(PHEV)PHEVシステムをコンパクトSUVに搭載。2025年に年次改良でスマホ連携ナビ全車標準化
エクリプスクロスコンパクトSUVガソリン・4WD設定あり。スタイリッシュなクーペSUVフォルム
RVRコンパクトSUVコンパクトで扱いやすいSUV。エントリーモデルとして継続販売

デリカシリーズ

車種カテゴリ特徴
デリカD:5ミニバン(4WD)クロスカントリー走破性を持つ本格4WDミニバン。唯一無二の存在。2025年度販売台数が過去最高を記録
デリカミニ軽スーパーハイトワゴン2023年発売。デリカのデザイン哲学を軽自動車に。2025年フルモデルチェンジ。最上級グレードの注文が堅調
デリカD:2コンパクトミニバンスズキソリオのOEM

ピックアップトラック

車種特徴
トライトン2024年に約12年ぶりに日本市場へ復活。本格ラダーフレーム・ピックアップトラック。ディーゼル4WD。SUVベースではなく真のピックアップ

軽自動車

車種カテゴリ特徴
eKクロスEV軽BEV2022年発売。日産サクラと兄弟車。軽自動車初のBEV。航続距離180km
eKクロス軽クロスオーバー日産eKクロスと兄弟車
eKワゴン軽ハイトワゴン日産eKワゴンと兄弟車

注目:パジェロ復活の動向(2026年)

2026年には次期パジェロの動向に大きな注目が集まっています。トライトンのラダーフレームをベースにしたパジェロ復活説が濃厚で、価格は550万円〜との予測もあります。2026年5月には後ろ姿が公開され、躍動感を感じさせるウエストラインや個性を放つCピラーのガーニッシュ、逆L字型ランプなどが確認されています。

ランドクルーザー一強の本格SUV市場に風穴を開けられるか、ファンから大きな期待が寄せられています。

売れ筋・人気車種(2026年時点)

  1. デリカD:5:2025年度の販売台数が過去最高を記録。他社に存在しない「4WDミニバン」という唯一無二のポジションで根強いファンに支えられている
  2. アウトランダーPHEV:PHEVの先駆者として高い評価。S-AWCの走破性とEV走行距離の長さが評価されており、三菱の収益を牽引する高採算モデル
  3. デリカミニ:軽自動車でデリカのデザインを再現したことで話題に。2025年フルモデルチェンジ後も最上級グレードの注文が堅調
  4. トライトン:2024年の日本復活後に本格SUVファン・アウトドア層から注目を集める

独自技術の解説

S-AWC(スーパーオールホイールコントロール)

S-AWCはSuper All Wheel Controlの略で、4輪の駆動力や制動力をそれぞれ独立して電子制御し、最適な駆動状況が得られるようにした三菱自動車工業の車両運動統合制御システムです。

具体的には以下のシステムを統合制御します。

S-AWCは、数十年にわたる三菱自動車の四輪制御技術の集大成ともいえる技術です。駆動力と制動力を使って、旋回時や加減速時にも車体の挙動を自由自在にコントロールすることができます。

最新のアウトランダーPHEVではモーターの優れたレスポンスを活かし、瞬時に前後のトルク配分を自在に変えることが可能になりました。

PHEV(プラグインハイブリッド)システム

アウトランダーPHEVはフロントとリアに独立したモーターを持つツインモーター4WDです。EV走行距離が長く(現行型で87km以上・WLTCモード)、家庭での充電を基本に使えばガソリンをほとんど使わずに済みます。停電時には車から家に給電する「V2H(Vehicle to Home)」にも対応しており、災害時の電源としても評価されています。

ドライブモードセレクター(7つのモード)

アウトランダーPHEVのS-AWCには7つのドライブモードが設定されています。NORMAL・ECO・POWER・SPORT・SNOW・GRAVEL・MUD(泥)の各モードで前後駆動力配分・アクセルレスポンス・AYC制御を最適化します。ダイヤルを回すだけで路面・走行シーンに合わせた制御に自動切換えされます。

グレード体系

グレード位置づけ主な採用車種
M・Gエントリーグレードエクリプスクロス・RVR等の標準グレード
P上位グレード装備充実版。シート・ナビ等が充実
S-Editionスポーティグレードブラック外装パーツ・オーバーフェンダー等でアグレッシブなスタイル
Premium最上位グレードデリカミニ等の最上級仕様
RALLIARTスポーツグレードWRCの伝統を継ぐラリーアート復活グレード。アウトランダー・デリカD:5・エクリプスクロスに設定

不祥事・問題の歴史

第1次リコール隠し(2000年)

最初のリコール隠しが発覚したのは2000年のこと。1977年から約23年という間、10車種・約69万台分に上る重要な不具合情報を運輸省へ報告せずに隠蔽していたことが三菱社員からの内部告発で発覚しました。三菱側はユーザーからの不具合情報を秘密裏に管理し、運輸省への連絡をしないまま直接ユーザーとのやりとりで回収・修理する「ヤミ改修」も行っていました。

第2次リコール隠し・横浜母子死傷事故(2004年)

2000年のリコール隠し以降も隠蔽されていた約74万台のリコール隠しが2004年に新たに発覚。技術的欠陥があるクルマが放置された結果、2002年に横浜母子3人死傷事故・山口トラック運転手死亡事故が発生し、役員が逮捕される事態となりました。

ダイムラークライスラーはこの2004年の問題を受けて追加支援を断り、三菱自動車は経営危機に陥りました。

燃費データ不正(2016年)

2016年4月に発覚した三菱自動車燃費不正事件では、カタログ上の燃費が5〜10%水増しされていた対象車はeKワゴン・eKスペース・日産デイズ・日産デイズルークスの4車種でした。

日産から指摘を受けて発覚したというのがこの事件の特徴で、不正を自ら発見・報告したのではなく「言われて認めた」という点が企業ガバナンスへの不信を深めました。

この事件を契機に日産が発行済み株式の34%を取得し、三菱は事実上の傘下に入りました。

不正が繰り返される構造的問題

燃費不正の原因を探ると、ダイハツ工業やスズキとの燃費競争に勝とうと目標が5度も引き上げられ、現場の「無理だ」との声が経営陣には届かない状況がありました。データを改ざんするための専用ソフトウェアまで開発され、不正の手口は代々引き継がれていました。三菱自動車はこの20年近く経営の混乱が続いており、リコール隠し等の不祥事もあり株主や経営者が次々に変わりました。技術者も次々に会社を去り、競争力が低下していったのです。

モータースポーツの歴史

WRC(世界ラリー選手権)での栄光

三菱自動車は1967年から国際ラリーに挑戦し、1973年のWRC創設以降最高峰のスプリントラリーに参戦しました。コルト・ランサー・スタリオン・ギャランへとバトンは受け継がれ、とりわけ過酷なグラベルラリーで活躍。ランサーエボリューションにより1996年から4年連続でドライバーズチャンピオンを獲得するなど金字塔を打ち立てました。

トミ・マキネン(フィンランド)は1996〜1999年の4年連続チャンピオンを達成し、「フライング・フィン」の異名で伝説的なドライバーとなりました。ランエボはこのWRC参戦を通じてS-AWCの技術を磨き、その技術が現在のアウトランダーPHEVに受け継がれています。

ダカールラリーでの圧倒的な強さ

三菱自動車は2008年までパジェロでダカールラリーにて快進撃を続けました。

1985年の初優勝から2008年の最後の優勝まで通算12回の総合優勝を達成。パジェロは砂漠・砂利・岩場という過酷な環境でその信頼性と走破性を証明し続けました。現在はワークス活動こそ縮小していますが、アウトランダーPHEVでアジアクロスカントリーラリーへのプライベーター支援は継続されています。

現在のモータースポーツ活動

現在三菱はワークスとしてのWRC・ダカール参戦は行っていません。ただし「RALLIART(ラリーアート)」ブランドを2022年に市販車グレードとして復活させ、モータースポーツの遺産をブランドアイコンとして活用しています。RALLIARTグレードはアウトランダー・デリカD:5・エクリプスクロスに設定され、専用のアグレッシブなスタイリングと走行チューニングが施されています。

チューニング・アフターパーツ

三菱純正スポーツブランド:RALLIART

RALLIARTは三菱自動車のモータースポーツ・スポーツグレードブランドです。WRC参戦時代のチーム名「三菱ラリーアートチーム」として活躍しましたが、2010年に活動を一時停止。2022年に市販車グレードとして復活しました。RALLIARTグレードはブラック外装パーツ・オーバーフェンダー・専用インテリアが与えられ、スポーティな雰囲気を演出しています。

主なアフターマーケットパーツメーカー

メーカー得意分野主な製品
HKSランエボ・チューニング全般ランエボ向けターボ・ECU・マフラー。ランエボXで1,000ps超も実現
TRUST(GReddy)ターボ・インタークーラーランエボのターボアップキット・インタークーラー
CUSCO(クスコ)足回り・ボディ補強ランエボ・インプレッサ向け車高調・ロールケージ
BLITZ電子制御・サスペンションランエボ・アウトランダー向けダンパー・マフラー
柿本改(kakimoto racing)マフラー専門ランエボ向けの高評価マフラー
Garage Vary(ガレージベリー)デリカD:5専門デリカD:5向けエアロ・リフトアップキット・ライト系カスタム
WALD(ヴァルド)エアロ・ドレスアップデリカD:5向けエアロキット・ホイール等

人気チューニング車種

生産拠点

国内拠点

拠点主な生産車種
岡崎製作所(愛知県岡崎市)アウトランダー・アウトランダーPHEV・エクリプスクロス等の主力生産拠点
水島製作所(岡山県倉敷市)デリカD:5・eKシリーズ・軽自動車生産

海外主要拠点

国・地域拠点主な生産車種
タイMMTh(タイ三菱モーターズ)パジェロスポーツ・トライトン等。アジア輸出の拠点
インドネシアMMKsi(三菱自動車クラマユダ)エクスパンダー・エクスフォース・デスティネーター等。ASEAN最大の拠点
フィリピンMMPC(三菱モーターズフィリピン)L300・アドベンチャー等
中国広汽三菱(現在は停止状態)中国市場向けに展開していたが、EVシフトに対応できず実質的な生産停止に

主要販売市場

市場状況主力車種
アジア・オセアニア(ASEAN)三菱の最重要市場。インドネシア・タイ・フィリピン等でシェアが高いエクスパンダー・パジェロスポーツ・トライトン・デスティネーター
日本国内シェアは低いが、デリカD:5・アウトランダーPHEVが独自市場を形成デリカD:5・アウトランダーPHEV・デリカミニ・トライトン
北米(米国)アウトランダー・エクリプスクロス等を展開。関税影響を受けながらもディーラー強化中アウトランダー・アウトランダーPHEV・エクリプスクロス
オセアニア(豪州等)トライトン・パジェロスポーツが人気。新型モデル投入でブランドバリュー向上を狙うトライトン・アウトランダー
中東・アフリカパジェロスポーツ・トライトンの需要が旺盛。過酷な環境での信頼性が評価パジェロスポーツ・トライトン・デスティネーター
中国EVシフトに対応できず広汽三菱の生産が実質停止。撤退に近い状況

三菱自動車の評判・口コミ傾向

高く評価されているポイント

批判・不満が多いポイント

まとめ:三菱自動車の今後

三菱自動車は2025年度に純利益が75.6%減と深刻な減益を記録しながらも、デリカD:5の販売台数過去最高・新型デスティネーターの好調な立ち上がりなど足元では改善の兆しが見えています。

2026年後半から2027年にかけて期待されるのは、パジェロの復活と次期クロスカントリーSUVの投入です。トライトンをベースにした新型パジェロが登場すれば、「本格SUV×三菱ブランド」という伝統が再生され、長年のファンへの回答となります。S-AWC×PHEVという世界でも独自性の高い技術を持つ三菱が、電動化時代に自分たちの強みをどう活かしていくかが今後の最大の焦点です。