日産自動車は1933年の創業以来、スカイラインGT-Rやフェアレディ、リーフなど数多くの名車を世に送り出してきた日本を代表する自動車メーカーです。一方で1990年代の経営危機・ゴーン体制・ゴーン事件と劇的な歴史を持ち、現在も経営再建の真っ只中にあります。この記事では日産の歴史・車種・技術・経営・不祥事・レース・チューニングまで、あらゆる側面を詳しく解説します。

日産自動車の歴史

創業から戦前・戦後復興期(1933〜1960年代)

1933年、鮎川義介が「戸畑鋳物」の自動車部門を分離して「自動車製造株式会社」を設立。翌1934年に現在の「日産自動車株式会社」に改称しました。「日産」という社名は「日本産業」の略から来ています。

1952年にはイギリスのオースチンと技術提携を結び、大量生産技術を本格的に習得。これが戦後日本の自動車産業発展の礎となりました。1966年にはプリンス自動車工業と合併し、スカイライン・グロリアといった名車が日産ブランドに加わります。

スポーツカー黄金期と901運動(1969〜1990年代)

1969年に初代スカイラインGT-R(KPGC10)が誕生。レースで無敵の52連勝を記録し、「羊の皮をかぶった狼」と称されました。フェアレディZはアメリカ市場で大ヒットを記録し、「Z」シリーズは北米における日産の象徴的存在となります。

1980年代後半には「901運動」を展開。「1990年代を目標に、世界一の走りを持つ車を作る」という社内目標のもと、シャシー・サスペンション・エンジンの技術力を劇的に向上させました。この時代に誕生したR32スカイラインGT-R・Z32フェアレディZ・S13シルビアは、現在も旧車市場で高い人気を誇ります。

バブル崩壊と経営危機(1990年代)

バブル崩壊後、販売不振と過剰投資が重なり、日産は2兆円超の有利子負債を抱えて経営破綻寸前の状態に陥ります。この時期に多くの工場閉鎖・人員削減が行われましたが、抜本的な解決には至りませんでした。

ルノーとの提携とゴーン体制(1999〜2018年)

バブル崩壊と901運動の余波により、2兆円の有利子負債を抱えて経営破綻寸前であった日産自動車は、1999年にフランスのルノー傘下に入って、人的・経済的支援を受けて経営を立て直すことになりました。「コストカッター」と呼ばれるルノー社長カルロス・ゴーンが辣腕を振るったことにより、日産は2003年に負債を完済しました。

ゴーン体制下での「日産リバイバルプラン」は国内5工場の閉鎖・2万1,000人の削減という大胆な構造改革で、就任から2年足らずで黒字化を実現しました。その後ゴーンはルノー・日産・三菱の3社アライアンスを率いる「カリスマ経営者」として世界的に高く評価されます。

ゴーン事件と崩壊(2018年〜)

ゴーン氏が金融商品取引法違反で逮捕されました。会社の私物化の疑いもあるとされました。ゴーン氏はルノー、日産、三菱自動車の3社連合のリーダーとなっていたことに対し、日産はルノーの支配から逃れるため、ゴーン氏を失脚させたという見方があります。

2019年にゴーンはレバノンへ逃亡し日本での裁判を逃れます。この事件はアライアンスの根幹を揺るがし、ルノーと日産の対立が表面化しました。カリスマ経営者を失った日産は方針が定まらず、その後の経営迷走の一因となります。

現在の経営状況(Re:Nissan)

2024〜25年:6,700億円超の最終赤字

2025年度通期のグローバル販売台数は315万台となり、連結売上高は12兆円、連結営業利益は580億円となりました。売上高営業利益率は0.5%となり、当期純利益は-5,331億円となりました。

前年度(2024年度)の最終赤字は6,700億円超という深刻なものでした。中国市場での販売失速・北米での値引き競争による収益悪化・モデルの高齢化(新車投入の遅れ)が主な原因です。

Re:Nissan経営再建計画

2025年3月期、日産は6708億円の最終赤字に陥り、現在の日産自動車の姿を1990年代末の経営危機時に重ねる向きがあります。

2024年末に発表されたRe:Nissan計画の骨子は以下のとおりです。

2025年度通期では営業利益580億円と改善の兆しが見えていますが、純利益は依然として大幅な赤字です。

中国市場での苦境

かつて日産の最大市場だった中国では、地場EVメーカー(BYD・吉利・SAIC等)の台頭により販売台数が激減しています。東風汽車との合弁「東風日産」は持分法適用に変更され、連結から外れました。ファーウェイのコックピットシステムを搭載した現地向けティアナで巻き返しを狙っていますが、状況は厳しいです。

ルノー・日産・三菱アライアンスの現状

2023年に資本関係を対等に見直し(ルノーの日産への出資比率を43%から15%に引き下げ)、アライアンスは「平等なパートナーシップ」へと形を変えました。三菱自動車は日産が筆頭株主(約34%)の関係を維持しています。

現行車種ラインナップ(2025〜26年時点)

軽自動車

車種カテゴリ特徴
ルークススーパーハイトワゴン2025年フルモデルチェンジ。4万台超の受注。ゼログラビティシート・ProPILOT搭載
サクラ軽EV日本初の量産軽EV。航続距離180km。補助金適用で実質100万円台も
デイズハイトワゴン三菱eKワゴンと兄弟車。e-POWER非搭載の入門軽

コンパクト・セダン・ハッチバック

車種カテゴリ特徴
ノートコンパクトカーe-POWERのみのラインナップ。燃費・走りともに高評価。日産国内販売の主力
ノートオーラプレミアムコンパクトノートの上位版。上質な内外装・NISMO設定あり
リーフ(3代目)EV2026年1月発売。SUVスタイルに刷新。航続距離最大702km(WLTC)

SUV

車種カテゴリ特徴
エクストレイルミドルSUVe-4ORCE搭載の4WDが人気。3列シート設定あり。NISMOモデルあり
キックスコンパクトSUVe-POWER搭載。2026年フルモデルチェンジ
アリアEV SUVフラッグシップEV。e-4ORCE・NISMO設定あり

ミニバン

車種カテゴリ特徴
セレナミニバンe-POWER搭載・ProPILOT搭載。ファミリー向け主力ミニバン
エルグランド(新型)ラージミニバン16年ぶりの刷新で2026年7月発売。価格689万7,000円〜。アルファードに対抗

スポーツカー

車種カテゴリ特徴
フェアレディZ(RZ34)スポーツクーペ2022年復活。3.0LツインターボV6・高い人気から納期が長期化
GT-R(R35)スーパースポーツ2007年〜2025年8月生産終了。18年間・約48,000台を生産。最終モデルはPremium edition T-spec(ミッドナイトパープル)。現在は中古市場のみで入手可能

売れ筋・人気車種

日本国内での日産車の販売ランキングは概ね以下の順位で推移しています。

  1. ノート:e-POWERの燃費性能と走りのよさで長年1〜2位をキープ
  2. ルークス:2025年フルモデルチェンジ後に急速に台数を伸ばす
  3. セレナ:ミニバン市場でステップワゴン・ヴォクシーと争う
  4. デイズ:軽自動車の入門として安定した需要
  5. エクストレイル:SUVブームの恩恵で好調を維持

独自技術の解説

e-POWER(イーパワー)

e-POWERは日産独自のシリーズハイブリッドシステムです。エンジンは発電専用に使い、タイヤは100%モーターで駆動します。充電不要でトヨタのハイブリッドとは異なる「エンジンを発電機として使う」という発想で、EV感覚の加速フィールを得られる点が特徴です。2016年のノートへの搭載以来、ノート・セレナ・エクストレイル・キックス等に展開しています。

e-4ORCE(イーフォース)

e-4ORCEは、これまで日産が培ってきた4WD制御技術、シャシー制御技術に、電動化技術が加わることで誕生した革新的な駆動システムで、100%モーターで駆動するEV、e-POWERの走りをさらに高いレベルに引き上げます。状況に合わせて4輪の駆動力を自在に制御し、上質で意のままの走りを提供します。

前後2つのモーターと4輪ブレーキ制御を組み合わせ、路面状況に応じてミリ秒単位で駆動力を配分します。雪道でも安定した走りを発揮し、アリア・エクストレイルに搭載されています。

ProPILOT(プロパイロット)

日産の運転支援技術の総称です。高速道路での車線維持・前車追従・自動ブレーキを組み合わせた「ProPILOT 1.0」から、ナビと連動してカーブ前自動減速・分岐対応が可能な「ProPILOT 2.0」まで進化しています。現在は多くの日産車に標準またはオプション設定されています。

VR38DETT(GT-Rエンジン)

GT-R(R35)に搭載される3.8L V型6気筒ツインターボエンジン。手組みの職人(匠)が一基ずつ組み上げる生産方式で有名で、現行NISMO仕様は600psを発揮します。2007年の登場以来、改良を重ねながら現在も生産が続いています。

GT-Rの生産終了と次世代へ

R35 GT-Rは2025年8月26日に生産終了が発表されました。18年間で約4万8,000台が生産され、最後の1台は栃木工場で生産された「Premium edition T-spec」のミッドナイトパープルで、日本のユーザーに届けられました。

生産終了の主な理由は、2025年12月からの継続生産車を含めた衝突被害軽減ブレーキ装着義務化への対応コストが膨大になること、および一部部品の供給が困難になったことです。2007年のデビュー時から18年でベースグレードの価格が1.8倍以上(777万円→1,444万円)になっていました。

日産はGT-Rの名を次世代に向けて再定義することに取り組んでいるとしており、R35から得た知見を次世代GT-Rの開発に活かしながら新たな基準を打ち立てることを目指しています。

ジャパンモビリティショー2023に展示されたEVコンセプト「ハイパーフォース」(全固体電池・最大1,000kWモーター)が次世代GT-Rの布石ではないかと注目されています。

グレード体系とNISMO

日産の主なグレード体系

日産のグレード体系は車種によって異なりますが、おおむね以下の構成が多いです。

グレード区分位置づけ
標準グレード(S・G等)エントリー・コストパフォーマンス重視ノートS・エクストレイルG
上級グレード(X・e-4ORCE等)装備充実・4WD等の機能追加エクストレイルe-4ORCE
ハイウェイスター外装をスポーティに強調した派生モデルセレナ ハイウェイスター
AUTECH(オーテック)上質・プレミアム方向のカスタムセレナ AUTECH・エルグランド AUTECH
NISMO(ニスモ)レース技術を投入したスポーツグレードノートオーラNISMO・アリアNISMO・エクストレイルNISMO

NISMO(Nissan Motorsport)とは

NISMOは日産のモータースポーツ・チューニング部門で、正式名称は「Nissan Motorsport International(日産モータースポーツ&カスタマイズ)」です。レーシングカーの開発から、市販車のNISMOグレード展開、アフターパーツ販売まで幅広く担います。

NISMOロードカーの哲学は「より速く、気持ち良く、安心して走れる車」で、レース技術のノウハウを活かした空力性能とデザイン性が両立したスタイリング、専用チューニングによる走行性能の高さを実現しています。

不祥事・問題の歴史

カルロス・ゴーン事件(2018年)

2018年11月、ゴーン会長が金融商品取引法違反(有価証券報告書への役員報酬の過少記載)容疑で東京地検特捜部に逮捕されました。その後、会社の私物化(特別背任)も追加起訴されます。ゴーンは保釈中の2019年12月にレバノンへ逃亡し、現在も日本では逃亡犯の扱いです。

識者はゴーンの入社後、日産の業績は確かに回復したが、その多くはコストダウンによるものであり、企業として成長できたかは疑問だと指摘しています。

無資格検査問題(2017〜2018年)

2017年、国内の日産工場で完成車検査を資格を持たない従業員が行っていたことが発覚。約116万台のリコールを実施しました。2018年にも燃費・排ガスデータの測定方法に不正があったことが追加で発覚し、信頼性に大きな打撃を与えました。

中国市場での失速(2022年〜)

かつて年間150万台以上を販売していた中国市場で急激な販売台数の落ち込みが発生。EVへのシフトに乗り遅れ、地場ブランドとの競争に負けた構図です。東風汽車との合弁事業の大幅な縮小を余儀なくされています。

モータースポーツ活動

SUPER GT GT500クラス

日産/NMCは、SUPER GT GT500クラスにNissan Z NISMO GT500で参戦しています。2026年シーズンは3チーム3台体制で戦います。KONDO RACING・NDDP RACING等が日産系チームとして活躍しています。

かつてR32〜R34スカイラインGT-RがGT選手権を席巻した歴史を持ち、現在はフェアレディZ(RZ34)ベースのレーシングカーで戦っています。

GT3プログラム

日産/NMCは、NISSAN GT-R NISMO GT3でレースに参戦するチームに引き続き技術支援を行っています。SUPER GT GT300クラスにはKONDO RACINGのほかNILZZ Racing・HELM MOTORSPORTS等が参戦しています。

フォーミュラE

日産はフォーミュラEにワークスチームとして参戦しています。電動レーシングシリーズでの参戦は、市販EVの技術開発とブランディングを兼ねた活動です。2025/26シーズンはe-4ORCE 05で戦っています。

ル・マン・WEC

日産はかつてル・マン24時間に多くのGT-Rで参戦した歴史を持ちます。近年は直接参戦していませんが、GT-R NISMO GT3でのカスタマー支援は継続しています。北米ではNismo GT-ZコンセプトでGRIDLIFE GT Seriesへの参戦も予定されています。

チューニング・アフターパーツ

NISMOパフォーマンスパーツ

NISMOは公式のアフターマーケットパーツブランドとして、市販車向けにチューニングパーツを展開しています。

主なチューニングメーカー(日産車専門・強み)

メーカー得意分野代表的な実績
HKSGT-Rエンジンチューニング・ターボGT-R 1,000ps超を達成
Top Secret(トップシークレット)GT-R・スカイラインの最高速チューンGT-Rで400km/h超を記録
Mines(マインズ)GT-Rサーキットチューン筑波サーキット最速クラスのGT-R
ニスモ(NISMO)純正ベースの高品質チューニングGT-R・Z用公式パーツ
オーテック(AUTECH)コンプリートカー・特装車日産の公式カスタムブランド
Do-LuckフェアレディZ・GT-Rのドリフト・サーキットD1グランプリ参戦

人気チューニング車種

日産車の中でチューニングベースとして特に人気が高い車種は以下のとおりです。

生産拠点

国内拠点

拠点主な生産車種備考
栃木工場(栃木県)GT-R・フーガ・シーマGT-R手組み生産「匠」の拠点。Re:Nissan計画で見直し
追浜工場(神奈川県)リーフ・サクラ・ノートEVの主力生産拠点
九州工場(福岡県)エクストレイル・セレナ主要車種の生産拠点

海外主要拠点

国・地域拠点主な生産車種
アメリカスマーナ工場・キャントン工場(テネシー州・ミシシッピ州)ローグ・セントラ・アルティマ等
メキシコアグアスカリエンテス工場センティア・マーチ等
イギリスサンダーランド工場キャシュカイ・リーフ(欧州向け)
中国東風日産各工場ティアナ・シルフィ等(縮小中)
インドチェンナイ工場マグナイト等(新興国向け)

主要販売市場

市場主力車種状況
日本ノート・ルークス・セレナ安定した販売基盤。EV・e-POWERが評価されている
北米(米国)ローグ(エクストレイル相当)・セントラ・アルティマローグが主力。競争激化で値引き販売が利益を圧迫
中国ティアナ・シルフィ・アリア急激な販売減。地場EVメーカーとの競争で苦戦
欧州キャシュカイ・ジューク・アリアサンダーランド工場が欧州向けを担当
新興国マグナイト・サニーインド・東南アジアで低価格モデルが展開

日産の評判・口コミ傾向

良い評価が多いポイント

批判・不満が多いポイント

まとめ:日産の今と今後

日産自動車は2024〜25年にかけて深刻な経営危機に直面しましたが、Re:Nissan計画のもとで構造改革を進め、2025年度は黒字転換への兆しを見せています。新型ルークスの大ヒット・16年ぶりのエルグランド刷新・新型リーフ(SUVスタイル)投入など、商品力の強化が始まっています。

一方で中国市場の低迷・北米での競争激化・EV市場での出遅れという構造的な課題は残ります。e-POWER・e-4ORCE・ProPILOTという独自技術、そしてGT-RやフェアレディZという強烈なブランドアイコンを持つ日産が、この再建局面をどう乗り越えるかが今後の焦点です。スポーツカー・チューニング文化においても、GT-RとフェアレディZは世界中のカーエンスージアストから支持を受け続けており、日産ブランドの底力を示し続けています。