ブレーキを踏むたびに「キーキー」「シャー」という音が鳴る——この不快な音に悩んでいる方は少なくありません。住鉱潤滑剤(SUMICO)の「ディスク鳴き止め剤」は、ブレーキの効きを一切損なわずにこの鳴きを止めることができる、ユニークな成分構成を持つ製品です。本記事ではブレーキ鳴きの原因から始まり、製品の特徴・施工方法・注意点まで詳しく解説します。

そもそもブレーキ鳴きはなぜ起きるのか

ブレーキの鳴きは「摩擦振動」が原因です。ブレーキパッドがディスクローターに押し付けられるとき、パッドとローターの間で微細な振動(共振)が発生し、それが音として外に出てきます。スピーカーが振動で音を出すのと同じ原理で、ブレーキシステム全体が共鳴体になってしまっている状態です。

鳴きが発生しやすい主な条件は以下のとおりです。

ブレーキの種類と鳴きやすさの違い

ディスクブレーキ

現在の乗用車のほとんど(フロントは全車・リアも多くの車種)に採用されているタイプです。ディスク(円盤状のローター)をパッドで両側から挟んで制動します。制動力が高く放熱性にも優れますが、パッドとローターの接触面が「面」ではなく「2点の面圧」で当たる構造のため、共振が起きやすく鳴きも発生しやすいという特性を持っています。

SUMICO ディスク鳴き止め剤はこのディスクブレーキ専用に設計されています。

ドラムブレーキ

シューと呼ばれる弓形の摩擦材をドラム内側から外側に広げて制動するタイプです。リア専用として現在も軽自動車・コンパクトカーのリアに多く採用されています。ドラムブレーキも「グーグー」「ゴリゴリ」という鳴きは発生しますが、シューとドラムが広い面積で接触するため「キーキー」という甲高い共振音はディスクに比べて少ない傾向があります。ドラムブレーキには本製品は対応していません。

回生ブレーキ(電動車・ハイブリッド)

ハイブリッド・EV・PHEVは油圧ブレーキと回生ブレーキを組み合わせて使用します。回生ブレーキが優先されるため油圧ブレーキのディスクパッドが当たる頻度が低く、ローターに錆が発生しやすい・パッドのなじみが遅いという特性から鳴きが発生しやすいという皮肉な状況になります。

ブレーキ鳴きが起こりやすい車種・シチュエーション

特徴具体例・理由
ハイブリッド・EV車全般プリウス・ヤリスクロスHV・リーフ等。回生優先でディスクパッドの使用頻度が低くローターが錆びやすい
スポーツパッドに換装した車スポーツパッドは摩擦材が硬く、低速軽踏みでの鳴きが純正比で増加しやすい
雨が多い地域・沿岸部ローターに水分・塩分が付着しやすく錆の発生が早い
走行頻度が低い車休日だけ乗る車や長期駐車後の車。ローター表面に錆が発生して最初の数回制動で鳴く
パッド交換直後の全車種新品パッドの当たり面が均一になる前の「初期なじみ」段階で鳴きやすい
輸入車全般欧州車は国産車より金属質の硬いパッドを採用するケースが多く、低温・低速での鳴きが出やすい傾向がある

SUMICO ディスク鳴き止め剤の製品詳細

基本スペック

項目内容
製品名ディスク鳴き止め剤
メーカー住鉱潤滑剤株式会社(SUMICO)
品番740362
容量150mL(エアゾール缶)
灰黒色
用途乗用車のディスクブレーキ専用
主成分炭化ケイ素・二硫化モリブデン・ワセリン・鉱物油・溶剤・噴射剤(DME)
タイプエアゾール(スプレー)
原産国日本

SUMICOディスク鳴き止め剤の外観

成分の特徴——なぜ効きが落ちないのか

本製品が「ブレーキの効きを落とさずに鳴きを止める」ことができる最大の理由は、「摩擦を下げる(潤滑)」のではなく「摩擦を安定させる(摩擦調整)」という全く異なるアプローチを取っているためです。

二硫化モリブデン(MoS₂)——特殊な「固体潤滑剤」

二硫化モリブデンは一般的なオイルやグリースとは異なる「固体潤滑剤」の一種です。分子構造が層状になっており、層同士がすべりやすい性質を持ちます。エンジンオイルに配合されることでも知られています。

ここで重要なのは、本製品における二硫化モリブデンの役割は「ブレーキパッド摩擦面を潤滑すること」ではないという点です。本製品はパッドの「側面」に塗布します。側面(パッドとキャリパーが接触する部分)の動きをスムーズにすることで、パッドがキャリパー内でガタつかず均一にローターに当たるよう補助します。ブレーキが踏まれていないときのガタつき・びびりが共振の一因になるため、これを抑えることが鳴き対策になります。

炭化ケイ素(SiC)——研磨剤としての働き

炭化ケイ素は非常に硬い研磨材料で、砥石や半導体材料にも使われる素材です。本製品に研磨剤として配合されていることは、パッケージにも明示されています(「注意:本品は研磨剤です。潤滑箇所には絶対に使用しないでください」という警告が表記されています)。

ローター表面に薄い錆や不均一な摩耗面がある場合、炭化ケイ素の微細な研磨作用がパッドとローターの接触面を均一に整えます。接触面が均一になると摩擦係数が安定し、共振が起きにくくなります。

「摩擦安定剤」という分類——潤滑剤との根本的な違い

SUMICO自身がこの製品を「特殊摩擦安定剤」と定義しています。通常の「潤滑剤」は摩擦を下げることで摩耗や熱を減らしますが、摩擦安定剤は摩擦係数を「下げる」のではなく「一定に保つ」ことを目的とします。

ブレーキが鳴く根本的な理由は「摩擦係数が瞬間的に変動する」ことによる共振です。摩擦係数が安定していれば共振は起きません。本製品は摩擦係数を安定させることで鳴きを止めるため、ブレーキの制動力そのものには影響しません。これが「ブレーキの効きを落とさずに鳴きを止める」ことができる科学的な根拠です。

施工方法

必要なもの

施工手順

パッドの「側面」にスプレー
ブレーキパッドの側面(ローターと接触する摩擦面ではなく、パッドの上・下・横の端面)に薄く吹き付けます。

施工上の重要な注意点

他の鳴き止め対策との比較

方法効果難易度コスト注意点
SUMICO ディスク鳴き止め剤○〜◎低(スプレーするだけ)1,000〜1,500円摩擦面への付着に注意。効果の持続期間は使用状況による
ブレーキパッドシム(鳴き止めシート)中(パッド脱着が必要)1,000〜3,000円パッドとバックプレートの間に挟むスペーサー。根本的な対策として効果が高い
ブレーキグリス(キャリパー摺動部)500〜1,500円キャリパーの動きを改善する別アプローチ。摩擦面には塗らないこと
ローター交換高(要専門店)2万〜8万円段付き摩耗・反りが原因の場合は必須

実際のユーザー評価

みんカラ・モノタロウ等の口コミからは「リピート購入しているが今のところ問題なし」「パッドやローター交換前の最終手段として使用し効果があった」という肯定的な評価がある一方、「効果は出たが持続しなかった」「スポーツパッドの鳴きには根本解決にならなかった」という声もあります。

評価を整理すると以下のようになります。

こんな方に向いている製品

まとめ

SUMICO ディスク鳴き止め剤は「ブレーキの摩擦を下げて鳴きを止める」のではなく「摩擦係数を安定させることで共振を抑える」という摩擦安定剤です。二硫化モリブデンと炭化ケイ素という二種類の機能材が相互に働き、ブレーキの制動力を損なわずに鳴きを抑制できる点が最大の特徴です。

施工は「パッドの側面にスプレーするだけ」と比較的手軽ですが、摩擦面への付着は制動力低下の危険があるため細心の注意が必要です。1,000円台で試せる手軽さは魅力的で、軽度〜中度の鳴きに対しては試す価値のある製品といえます。